痺れ半刻、痛みは躙り寄る

今朝、コンビニに行く感覚で歯医者の門戸を叩きちょいと診てもらいたいんだがと頼み申すと受付に予約はしてありますか?と聞かれたので、いや無い、と返事をしたところまずは診察券を作って予約をしてくれと頼まれ、仕方ねえなあ〜ったくも〜の態度を隠しながら様々記入を済ませると、何日にしますか?と再び聞かれ、仮にコンビニに行ったとして欲しいものがすぐに手に入らないなんて馬鹿なことはあるまい、今日いますぐがいい、と駄々をコネコネしたら、受付嬢の、では2時間後に来てくださいの一言。やったぜ。
歯医者に行ったのは小学4年生の時以来なので実に15年ぶりの歯医者である。なぜ急に歯医者かというと職場の40代50代の独身男性たちと話していると、皆笑う時に口の中に歯がまるで見当たらないのが甚だ目立って仕方なく、会話をする度にわしゃこんなんなりとうないという気持ちを起こされるからである。
一度家に帰り、風呂に入り歯を磨き、時間になって歯医者を訪れ、受付をしてくれたお姉さんにレントゲンを撮るからここに掴まれ、これを噛め、顔を動かすなと指示されるがままになり、ハイテクな機械でビーガガガーと撮影を済ませ、着席。
そして颯爽と先生の登場である。40半ばくらいの女医であった。今日はどうなされましたかと医者の常套句を受け、はい左奥歯になにやら黒い筋、虫歯に相違ありません、診てくださいませんかと歯を診てもらったところ、そんな場所はてんでかさぶたみたいのようなもので、右奥の親知らず、上の右裏側の歯の方が軽い虫歯になっているのだと言う。俺が前々から鏡で見て心配になっていた左奥歯の黒い筋などコップの中の嵐に過ぎず、真に海をたゆとう鮫は親知らずと上段の歯の裏側という、鏡では見えない部分であった。知らないまま手遅れになる前に歯医者来て良かった〜って超思った。
親知らずは歯茎に被さってるし放置すると良くないからすぐに抜いた方がいいね〜と説明を受け、ああ、手術の予約をしてまた抜きに来なくてはならないのか、予定を入れなきゃいけないのは面倒だな、と落胆していたら今から抜いちゃおっか、と冗談にも聞こえるくらい軽いノリで聞かれたので、コンビニに買い物しに来たんじゃねーんだぞと思いながら、今すぐ抜きましょう!即答のちオペ開始である。
まあ最初から虫歯の疑いを口実に親知らずも抜いてもらおうとも算段していたので話の進み方がとても快活だった。親知らず抜くと小顔になるって言うしね。とは言え、歯を抜くというのは実際恐怖心を煽られるもので、いや先生、15年ぶりなんすよ、痛いの嫌すよ、絶対に痛みなく抜いてくださいよ、ちょっ麻酔苦い!うがいさせて!はぁっはぁっ、やっぱ緊張してきた、ふー、ふー、とか言っておったら大人なのに手術に向き合う態度が小学生みたいだと思いっきり笑われてしまった。そりゃまあ人生で俺の中の歯医者の記憶は小学で止まってるからな。
俺の親知らずがまっすぐ生えていたのと先生の腕前の素晴らしいのが奏して手術は5分程度で終わった。歯を抜くのってまじでペンチで抜くんだな。目隠しはされてたけど感触はおぞましい。
緊張がスーッと解けていき、ほぼ寝そうになっていたところ、抜いた歯要る?と聞かれ、せっかくなので貰うことにした。こいつは帰って俺のマンションの上階のベランダに向かって投げます。

見よ残香は汝にのみ不可視である

俺が主に作業する班にはヒエラルキーが3段階あってボスが1人いてその下に熟練者2名がおり俺と遅刻常習者であり風呂に入らない岡本というヒキガエルみたいな笑い方をするのが見習いの扱いでボスから毎日ハンマーで頭蓋を殴られておる。先日作業をしている折、先輩の片割れに土日何してた?とやかましいことを聞かれ、プライベートな質問につき心境はやれやれな容態であったが、いつものようにパチンコの話をされるよりかはマシだと思い、土日は一切外に出ることなくアニメに興じておりましたと俺が丁寧に答えたところ、それを聞いた先輩は日本のアニメは全部見たよと嬉しそうに豪語してくるものだからおいオタク、どんなアニメ見るんよの探り合いスタートである。ギャグアニメが好きだと語る先輩に俺は問う。先輩、ぷにぷに☆ぽえみぃは如何でしたか。曰く、え、なにそれ。改めて問う。では、まじかる?ぽか〜んなどは如何でしたか。あれは良いアニメでしたねえ。復た曰く、それ見たことないわ。などと、埒の開かないやりとりをしていると監督者がやってきて、先輩に向かって岡本(その日1時間遅刻すると連絡を寄こしてきたのに2時間経っても来ていない)は本日はお休みです、あと岡本これからはもう来ませんので、と告げ、俺は横でそれを捕食された牛ガエルのような表情で聞いていた。ディン!ドン!である。目の前の見えぬところで死人が出た。首チョンパ、である。岡本は風呂にさえちゃんと入れば悪いやつではなかったし作業をするにあたって役に立つ人間ではあったので二度と来られないとなると惜しい気もしたが、あいつは風呂に入らないのでその点については死刑で良い。俺も過去に家に引き篭もり1ヶ月に一回しか風呂に入らなかった時期があったが、それゆえコンビニの店員にすこぶる嫌われたので、以来自分のにおいというものに恐怖心がある。身から出た錆はかちかち山のたぬきであり、人の精神に依る性質である。

見よ人影は消える

汝亀鑑たるを忘れ己の羞悪を省みよ と思い立ち、俺って人間としてどこらへんが駄目だと思う?って他人に聞こうと、昔から俺を知りながらもかろうじて俺の携帯に電話番号が残っておる人々に色々電話かけてみた結果ほとんどの人がそもそも電話出なくてまあそれは想定内だったんだが唯一奇跡的に出たのも平日の昼間から寝ぼけたような声で誰ですか?と知らんぷりぷりしてきたのでおいおいとぼけちゃって〜まったくお前ってやつぁ〜という心持ちで話を続行せしめるもどうやら本当に俺のこと知らないというか知らないはずはないんだけど蜘蛛の巣が絡み雨に濡れ泥にまみれページというページがお前、辞書か?というくらいに重苦しくそして水分によって癒着し読むこと能わざる学校の裏山に捨てられしエロ本のごとく忘却の彼方にやられていたようすで、いやいやいやw名が「す」ではじまって「た」で終わる者なんだが〜?wと言っても知らぬ存ぜぬを通されてやむなくハーすみません掛け間違えたみたいです、ツー、ツー、と、ツー、ツー、まで口で表現してから電話を乱暴に切り、受話器から発せられるツー、ツー、を冷徹な心境で聞きながら俺ってばこういうところが駄目だよねと深く自戒し、布団へ